研究室に入らせてくれ

新学期が始まった矢先、所属する学部の主任からこんなメールが来た。

件名:研究室希望調査について
本文:(前略)……研究室希望調査の結果、残念ながら皆さんは第5希望までの研究室への配属ができませんでした。
つきましては、第二回の希望調査を……(後略)

うちの大学の学生は、4年になると研究室に所属する。その目的は、目下のところは卒業論文を書くための指導を受けることであるが、学部生の9割超が大学院に進学する本学では、むしろ学部卒業後の修士課程、あるいはその先の博士課程における研究の準備をすることにある。

研究室希望調査とは、その名の通り、各学生が所属する研究室を決めるために行われる調査であり、集計された結果に基づいて学生が配属される。だが、1つの研究室あたり学生1〜3人しか新しく所属できないことから、全員の希望に沿った配属をすることは不可能であるがゆえに、成績のよい学生の希望を優先的に聞き入れて配属先を決定するという方法がとられる。となれば、必然的に、成績の良くない学生の希望が聞き入れられない場合が発生する。

そして、僕は成績がすこぶる良くない。

第5希望まで書けばどれかには入れるだろうと高をくくっていたが、よく考えたら研究室が5つあってもそこに新しく入れる学生は10人前後であり、その一方で、僕より成績の良い学生はこの学年に117人いるらしい。無理に決まっているのではないか。

僕には研究したい分野やテーマが特別あるわけではないので、希望した研究室に入れないことによる実際上の問題は特にないのだが、とにかく申し入れた内容が完全に却下されたということに関して、なんとなく残念だった。

そう、研究したい分野やテーマが特別あるわけではないのだが、ただ研究はしてみたいと思う。だから、分野は別に生物学でなくても構わないし、理系でなくても構わない。しかし、研究して新たな発見をすることそのものに興味がある、訳でもない。

僕は学術というものが知識を生む過程に興味がある、と言えばいいかもしれない。学術の一つの方法である科学は、現代において、主張に説得力を与えるうえで最も有効な手段とされている。科学的根拠があるのか、ないのか? これは感染症の拡大抑制に関しても、処理水の放出に関しても最も主要な論点であった。社会の意思決定の中枢には間違いなく科学が鎮座している。

しかし、科学者という仕事がなんなのか僕はよく知らないうえ、科学的に正しいとされる命題が必ず真であるとは限らないことを知っている。それは、たとえば統計的仮説検定がその定義において甘受している不確実性であったり、帰納という方法が結論の正しさを保証しないことを根拠とする。

だから、科学の内実を知るために科学者コミュニティに潜入したいと思う。そのためにはまず、院試の勉強をしないといけない。